27.9.12

大阪中央郵便局を巡る裁判について(2)


前回に続けて、裁判上の争点の二つ目について書きます。

○文化財保護法の解釈の問題
重要文化財を規定する法律は文化財保護法です。従って、裁判ではこの法律が主たる論点となります。文化財保護法の目的は、第一条に下記の通り述べられています。

「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする。」

また、この目的を達成するために、第三条で政府及び地方公共団体に対して、下記の通り任務を与えています。

「政府及び地方公共団体は、文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもつてこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。」

そして第二十七条で、重要文化財の指定を定めています。

「文部科学大臣は、有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。」

私たちは、大阪中郵を重要文化財に指定することを求める義務付け裁判を起こしたわけですが、被告である国側は、そのような義務はないと主張します。簡単にいうと、重文指定に関して、重要文化財に当たるか否か、そして当たる場合に指定するか否かについては、いずれも文化財行政に精通している文部科学大臣の広範な裁量に委ねるものと主張しています。
しかし重要文化財指定は、一般には「確認行為」と理解されています。確認行為とは、例えば建築確認申請が提出された場合、行政庁や民間の確認検査機関は、一定の要件を充たしていれば確認を下ろさなければならないということです。そこに裁量の余地はありません。国側は、指定基準が存在しないことを裁量の根拠のひとつに挙げていますが、「国宝及び重要文化財指定基準(昭和26年)」等の資料が実際には存在しています。
そもそも、文化財保護法の目的に鑑みれば、指定基準があり、ある建築物がその基準を明らかに充たすならば、速やかに指定に向けた取り組みを実行することが国には求められてしかるべきです。時の文部科学大臣の判断によって、文化財が残ったり残らなかったりするというのは、日本の文化にとって明らかに問題です。

とはいえ、実際の運用においては、ある程度の幅を持たせることは必要でしょう。基準を満たせば全て指定するというのは、現実的には様々な意味で困難です。そこで、運用上の問題というものがでてきます。
以下は特に裁判で争われているわけではありませんが、非常に重要な問題なので、この場で説明したいと思います。それは「所有者その他の関係者の同意(以下、所有者の同意)」の問題です。
文化財保護法には、第三条2項に下記の一文があります。

「政府及び地方公共団体は、この法律の執行に当って関係者の所有権その他の財産権を尊重しなければならない。」

重文指定に際して、所有者の権利が尊重されるべきであることは言うまでもありません。私たちも、所有者の権利が無視されてよいなどとは考えていません。しかし、国は所有者の権利を過度に重視し、文化財保護法の目的から外れた運用をしていると言わざるを得ません。
国は、重文指定の手続きを進める前提として、所有者の同意を条件としています。重文の基準を明らかに満たしていたとしても、所有者の同意がなければ、そこから前へは進まないのです。そのことは、いくつかの資料から明らかです。
本来であれば、重文の基準を充たす場合は、指定に向けた具体的な手続きを進め、その過程のなかで、所有者の権利を尊重していく、つまりどうすれば指定が可能か、国と所有者の間で協議していくべきでしょう。その結果、一部保存といった選択肢や、活用のための改修が認められるケースもあるでしょう。場合によっては、指定を諦めざるを得ないこともでてくるでしょう。しかし、それは指定に向けた協議を真摯に進めた結果であるべきです。国はそのような手続きを避け、あらかじめ所有者の同意を得なければ、何もしないというのです。これは明らかに文化財保護法の目的と任務に反しています。
そもそも法律上、所有者の同意は指定の要件にはなっていないのです。(続く)

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