25.2.12

資産計上から考える大阪中央郵便局

第2回緊急シンポジウムの冒頭、建物の資産的価値を最大限に発揮させるべく、建設プロジェクト全般に関するコンサルティングを行っている「あるく総合研究所」主宰の納見健悟氏から、「資産計上から考える大阪中央郵便局」と題したレクチャーをしていただいた。(図版作成:納見健悟)

まず納見氏は、われわれは「大阪中央郵便局」の所有者である「日本郵政グループ」に対して、政府を通じたステークホルダー(利害関係者)だと明言した。
それはなぜか? 民営化前の日本郵政公社は民営化後に、持ち株会社である「日本郵政」と、「郵便局」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」「日本郵便」の5社に分割され、日本郵政グループになった。この日本郵政グループの株式は上場されておらず、政府保有株という形で政府によって保有され、財務大臣の管轄下にある。したがって、われわれ国民は文化的価値という側面とは別に、資産の健全性という観点から政府が保有する資産を監視し、適切な運用が行われていないと判断される場合は、政府に対して行動を起こすことが可能ということになる。


 その上で、ステークホルダーであるわれわれも、企業経営の観点から大阪中央郵便局を考えてみよう。その時、現在の進め方は、文化的な面からだけでなく、経営的な面からも疑問が持たれる、と納見氏は結論づけた。
企業が保有する不動産は現在、CRE戦略という名前の下で、経営戦略に結びつけて考えられるようになった。無駄な資産を持たず、資産を最適化するということだ。その資産活用の方策としては、(1)自社開発、(2)売却、(3)証券化(開発委託)、(4)本業での活用、の大きく4つが存在する。(1)はリスク最大だがリターン大、(4)はリスク最小だがリターン小、(2)(3)はその中間である。
郵政グループの本業を考えた時、それが不動産投資ではないのは明らかだ。保有資産は多い。しかし、開発経験はわずかである。そして、最終的な建物から得られる収益を決めるのは、プロジェクトを遂行するための資金調達や、建設した建物に対してテナントを探してくるリーシングの能力だが、残念ながら郵政にその能力が十分であるとは言いがたい。現在、想定している自社開発という戦略は大きな果実が得られる反面で大きなリスクも伴う。

戦略の重要性は、日本郵政グループの内部の人も分かっているはず。それが戦略として反映されない意志決定のシステムこそ、最大の問題だと、納見氏は警鐘を鳴らす。

その上で詳述されるのは、大阪中央郵便局の即時解体3年後をメドにした新築の自社開発、というシナリオに対する代替案の余地だ。


まず、解体更地化の主なメリットは固定資産税の軽減だが、その額は資産=建物の課税標準額に対して約1.4%。これは建物が生みだしうる賃料と比較しても微々たるものに過ぎない。「皆さんが提案を行う際は、まずは、3年間の固定資産税にあたる金額で郵政から借り受けることを想定して、それを上回る事業収入を得れるような提案をぜひ行っていただきたい」。
次に、新築に対する活用提案の可能性だが、すでに36000m²も床を持っているのだから、この床を活用すれば、工事費は抑えることができる。完全な新築案と比べて総収入は減るが、新築に比べて建設費も減る。「キャッシュフローとしては、改修+新築にした方がほぼ新築の郵政案に比べて有利となる提案も十分可能」と述べる。



最後に提出されたのは、「歴史的建造物が持つ価値」を「無形資産」として計上する方策だった。歴史的建造物をもとにした優れた提案によって生み出される「賃料の上昇やブランド化」を、無形資産として捉えられるようにできるのではないか。その方策として提案するのが「大阪モダン建築ポータル」の設立である。


現在、多くの不動産仲介会社が業務に利用しているのが「REINS」という不動産取引情報提供サイトだ。ただし、REINSには時間的な評価軸は築年数しかなく、この場では「歴史的価値」もマイナスの情報として登録されてしまう。歴史的価値を市場の価値へと変換使用とした時には、REINS では評価できない評価軸を自ら作り出す必要がある。「大阪モダン建築ポータル」の設立を提案するのは、このためだ。
大阪にはさまざまな魅力的なモダン建築が存在する。その基本情報やイベント情報、活用事例や不動産仲介といった情報を集積して、無形資産となる価値の源泉をサーバ上にプールしていく。建物やそれをとりまく人々が生みだしていく価値をプールし、積み上げていくことによって、無形資産やブランドのエビデンスを提出できる。こうした無形資産による資産計上は、デザインと会計両方の観点から、大阪中央郵便局をはじめとした歴史的建造物の価値を説明できる視点となるのではないかと、納見氏はわれわれの視点を拡げてみせた。
「会計的な論理もうまく使えば、先人の優れた実績を資産として評価する道もある。そして、会計やマネジメントというのは意思決定側の言語でもある。相手側の論理で整理して価値につなげていくことが重要なんです」。

倉方俊輔(「大阪中央郵便局を守る会」呼びかけ人/建築史家/大阪市立大学准教授)

2 件のコメント:

  1. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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  2. 明治建築研究会21:48

    大阪中央郵便局の保存へ向けてのtw12・05・13

    5」大阪中央郵便局で解体進む、取り壊しが始まった大阪中央郵便局旧局舎。工事は4月に始まり、足場が組まれ、建物の一部がシートに隠れた。などの報道を見るたびに、選挙報道を思い出す。危ない、不利だと候補者の現況を知らせて、逆転を狙う手法もあるが、建築では、保存への道を諦めては大変、再生を!

    6」大阪中央郵便局の再生を!土地の高度利用、企業の経済性の追求の為には、歴史建築の解体も当然だとの、意見も理解できる。しかし、それだけでなく、都市の歴史、文化性を、後世に残すのも企業の社会的な勤めでは。日本郵政の担当者は「有識者の意見も伺いながら決定した計画で、変更の予定はない」と!

    10」特別に解体計画が進み取り壊しの危機に瀕している大阪中央郵便局の市民が気づいていない部分の箇所もスライドで紹介し、20数年前の保存を呼びかける資料なども展示。解体をやめて、保全再生を考えるささやかな、契機になる事を祈ります。5月19日(土)AM11時堺市立東図書館会議室。明治研究会

    11」「幻燈の内容」大阪中央郵便局、大浜公会堂、旧浜寺停車場、旧遊郭、銭湯など。大切に保存されている建築、取り壊された懐かしい建築の数々を幻燈で見ながら保存と取り壊しの現実、歴史遺産の保存の意義について考えます。5月15日~19日まで堺市立東図書館で「ミニ建築保存資料展」明治建築研究会

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