9.2.12

大阪中央郵便局について

 大阪中央郵便局は1936(昭和11)年月に起工され1939(同14)年月に竣工した。1939年と言えばドイツ軍がポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が始まった年である。1931年に竣工した東京中央郵便局と並び、日本の通信、物流、金融の拠点として、国の総力を挙げて建設された。設計は逓信省営繕課の吉田鉄郎である。

吉田鉄郎は設計意図を次のように述べている(現代建築、昭和1412月号)。「局舎の外装は純粋な無理のない表現を目標とした。外装のタイルは防空上の見地のみからではなく、煤煙の多い大阪市として汚れの目立たぬ様特に灰紫色のものにした。」

東京中央郵便局(1931年竣工)は真っ白なタイルで覆われているが、太平洋戦争が始まる2年前に完成した大阪中央郵便局は、戦争の影響を強く受けている。大阪中央郵便局は、日本の最も厳しい時代、戦前、戦中、戦後を生き抜いてきた、歴史の証人である。当時の写真を見ると、周辺に大きな建物はない。凛とした表情で聳え立つ中央郵便局は、戦後も長らく大阪の景観を代表し、都市建築の規範を示すものであった。

局舎の1階から階のほぼすべてと、地下の一部に郵便の区分作業を行う作業室が設けられていた。郵便は鉄道輸送の時代である。国鉄の駅舎とは地下専用通路で結ばれ、迅速に郵便物の受け渡しが行われていた。国鉄に面した1階北側には貨物線が引き込まれており、直接、列車から局舎に郵便物を引き渡すことができた。

郵便物の効率的な区分を目的として設計された近代建築であるが、駅前広場に面した公衆室(窓口ロビー)を始め、職員が働く作業室や休憩室などには、自然光がふんだんに取り入れられ、人に対する優しさや、日本の自然環境に対する配慮に満ち溢れた設計である。戦時中の物資の乏しい時代に建設された建物であるから、長く使われる事を考えて、無駄を排し、本当に必要なものだけまで削ぎ落とされた極限の建築表現である。それだけに、建具(サッシ)の寸法から一枚一枚のタイルの割り付けまで、設計の完成度は極めて高く、日本建築学会などは国指定の重要文化財に値すると評価してきた。ヨーロッパでモダニズム建築が始まったばかりの時代に、柱と梁で構成されるシンプルな外観によって、清楚で合理的な日本美を表現した大阪中央郵便局は、世界の建築界から、モダニズム建築の理想を具現化した本格的な建物として高い評価を得た。

80年近くに渡って、多くの大阪市民に親しまれてきた大阪中央郵便局だが、2007年の郵政民営化により、再開発計画が浮上した。2011年の暮に日本郵政がプレスリリースした内容によると、近く解体され、その跡地に仮設の郵便局が建設されると言う。年前まで郵便局として使われていた建物だから、どうしてそのまま郵便局として使わないのだろうか。大阪中央郵便局が営業していた時、窓口ロビーの壁に、昭和20年と平成12年の大阪中央郵便局の写真が掲げられ、大きな文字で「世紀を超えて愛される郵便局を目指します」と書かれていた。国民共有の財産である大阪中央郵便局。商都大阪の歴史と文化の証を、次の世代に引き継いでいきたい。(南一誠

3 件のコメント:

  1. 明治建築研究会21:07

    国の登録有形文化財に指定されている近代の喜八屋旅館旧館(佐渡市小木町で)が、新潟地裁佐渡支部から破産手続きの開始決定を。同社が所有する施設の一部は国の登録有形文化財に指定されており、文化庁は「貴重な文化財を残す道を模索してほしい」早急に文化財建築が保全再生されるよう要望します。


    寒空の中、旧大阪中央郵便局の保存を求める署名を集める運動に感激。何時もながら、解体を認めるような有識者と言われる人達の見解は問題が多い。保存に協力の為に、旧大阪中央郵便局などの、昔の保存要望書、記事などのミニ展示。2月18日まで、AM10時~堺市立東図書館で。解体を許さないために協力を!


    神戸長田で阪神大震災のボランティアの道しるべになった工業用ベルト大手・三ツ星ベルトの広告塔(59年)を同社が保存することに決めた。東日本大震災を受け災害に備えて工場の建て替えを進める中社内には撤去の声も出たが長田の復興のシンボルとして残す道を。心が暖かくなるような保存再生例である

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  2. 明治建築研究会17:22

    旧大阪中央郵便局:「局舎残し活用を」守る会、アイデア応募。解体計画が発表されている「大阪中央郵便局旧局舎」の有効活用を図る為に,中ノ島で検討されている大阪市立近代美術館に再生すればと思う。重要文化財クラスの日本の初期モダニズム建築の代表作を活用する。歴史遺産の保全と活用,一石二鳥である。橋下市政で、将来は不明であるが、天王寺公園の現在の近代の名建築の美術館同様に、新しく提言してゆきたい。

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  3. 明治建築研究会11:51

    大阪中央郵便局の保存と解体。かけがえのない歴史遺産の保存要望に、駈けずり回るのも、解体やむなしとの判断するのも共に建築を学ぶ者。前者は、力、発言力は弱いが、後者は逆。その仕組みを変えない限り、保存は難しい。公開の場で、保存と開発について、議論出来る様に努力すべきであるが、現実は難しい。


    大阪中央郵局庁舎を、建築全体の保全活用を図るようメール作戦で関係方面に要望しています。抗議声明文の提出と同時に、無謀な解体計画を阻止する為に、関係方面にメールで解体中止、全体の保存、訴えています。解体を認めるようなレポートを作成した建築の専門家、有識者の見解も聞きたいものです。

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